アンナチュラル全部見た

普段実写の映画は見るがテレビドラマはあまり見ない。でも地上波でチラ見して面白かったものや評判を聞いたものはスタックしている。

本作「アンナチュラル」もそのひとつで、法医学という珍しいテーマ*1と米津玄師のlemonが絶妙なタイミングで掛かるという2つの情報に惹かれて見ることにした。

 

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・・・にしてもマイリストに入れておいたのに気づいたら配信が終わってることが多くて困った。そんな中U-NEXTで見かけたが吉と思ってポイントをえいやと使って一気観した。

 

 

それでこれが手放しに面白いのよ。

 

 

普段ながら観をする私。その日も桃鉄をしながらと見ようと思ってスイッチを手元に準備しておいたのに、気づけばテレビ凝視してるもんね。ちなみに桃鉄は85年目に5兆円スられて気分が萎えた。

もう日本中の人が幾度と見たと思うけど、初見の新鮮な気持ちを記しておきたいと思います。以下ネタバレ有りでお送りします。

 

 

通底する無力感

アンナチュラルの見どころはこの7文字が象徴するのではなかろうか。

登場人物はみな、世の中を変える力を持った人たちである。法医学者:科学をして真の死因に迫り人類の知に貢献する力。刑事:法をして公正明大に人を裁く力。マスコミ:事実をして人心をつかむ力。理想として、どれも誠実に論理を積み重ねていけばその力を存分に発揮するはずである。しかし本作ではしばしば、その力を持ってして抗えない理不尽をつきつける。

5話。溺死の真相を突き止めるも、それが新たな殺人の引き金を引いてしまうミコト。本作の背骨となる金魚連続殺人事件。犯人が明らかでも証拠不十分で裁けず苦虫を噛み潰す刑事たち。働くうち情の湧いたUDIの美点を民衆のニーズという名の下いいように茶化されてしまう六郎*2

必ずしも正義が、誠実さが、論理が世の中を救うわけではない辛さを味わいながらも、折り合いをつけ、立ち向かって、負けずに前を向くUDIの面々がみどころである。

最終話・10話まで見れば、無力感に正義が打ち克つ清々しさを感じられる。法医学の明かした真実によって、法がきちんと人を裁く。ただ扇状的にあおるだけのマスコミは、真摯な真実の要求の前に敗れる。登場人物たちに共感し無力感でテレビの前から動けなくなっても、最後にはすっきり終わる後味の良さも魅力である。

 

構成

巧妙な伏線への高い評価はすでに周知のとおりであるし、金魚殺人事件という雲をつかむような怪しい背骨話があってこそ1話完結物語に筋が通って光りだす。1話・2話と法医学によるサクセスストーリーを描くことで、徐々に現れてくる無力感を補強する。

個人的に指摘しておきたいのは、同じシーンの再来で、敵の鼻をあかすポップでキャッチーな部分。法廷シーンがかなりツボ。最初は真実を述べているだけなのに法定で烏田検事に圧されるミコト、でも続く公判は中堂のおかげで逆転勝利。さらに3話では法廷で真実を(ある意味)好き勝手語ることで窮していたミコトが、最終話では一転被告人・高瀬を煽り倒し自白に及ばせる大手柄もあった。しかも3話で敵だった烏田検事とタッグを組んでの成果。こういうアンサーソング的リフレインが大変好みです。細かい遊び心的伏線も散りばめられているのも楽しい。毒物としてのエチレングリコールが2回出てきたりとか。

ご都合主義的なところは散見される*3けども、しょうもない話(かりんとう飽きた!とか)が時折挟まったり、そもそもUDIという組織が現実の構想に基づくとはいえ架空なので、現実に限りなく近い作り話として受け止められてあまり気にならない。8話なんか、ビル火災の生存者にすぎない高瀬が偶然連続殺人犯だった!という真実がマクガフィンとしか思えないけど、真実が明かされるタイミングが絶妙だしあっという間に次に進むテンポの良さのおかげでただの心躍る展開でしかない。最終話のアメリカで墓を掘り起こすシーンも同様。現地人が揉めてるところを神倉所長及び烏田検事がコンビネーションでなんとかするのもポップでキャッチー。

ディテール

ポップでキャッチーな雰囲気を崩さないで社会問題を扱う手腕が光る。1話のMERSウイルスの蔓延事件は、法医学の力や貢献度を視聴者に実感させるための話であるのは間違いないが、ウイルス蔓延にともなうSNSの誹謗中傷、医局の責任逃れ、報道姿勢といった現実世界で起こりうるディテールの細かさは、2020年のコロナ禍が証明してくれよう。7話の自殺未遂事件も、裁けない殺人といういじめの的確な表現、生き残ってしまった罪悪感(survivor's guiltというらしい)からの自殺、自殺をしても加害者に痛みは届かないという悲痛な言葉が紡がれる。脚本の野木氏の感受性と洞察力の鋭さを実感する。

 

まとめ

脚本の野木氏の手腕の担うところはきっと大きい。逃げ恥は見てないけど、2021年年始のSPでもいま顕在する社会問題を考えうる限り全部盛りしていたらしい。重版出来はキャラクター造形がコミカルでおもしろかった。逃げ恥に続いての期待作だった「けもなれ」は見てみたけど、なんだかすっきりしなくて好きじゃなかった(ガッキーの造形がモタモタしていたせいもあるかも)。でも伊藤沙莉の滋味出てる感じが好きだった。

というわけでまた脚本家縛りで追いかけるとして、逃げ恥とMIU404は見るべきか。MIU404はアンナチュラルのキャラクターが友情出演するらしい。

*1:でも解剖や検分を扱うフィクションはいくつかあるらしい

*2:マスコミは自身が自身の敵となるせいで無力感を生じさせる点で他の2例とは少し異なる

*3:あんなきれいに飛行機の離陸に間に合わない@6話